山を彩っていた紅い葉がやがて落ち
足元を吹き抜ける風に舞う頃になると・・・街は冬への準備を始める
街路樹は・・・色とりどりの装飾が施され、夜になればキラキラと光りだす
街は、心踊る恋人たちのための季節を迎える


「見てみて、珪くん、この天使可愛い!
 本当クリスマスっぽくなってきたよね」


俺たちが一緒にすごすようになって・・・もうすぐ3年
二人で過ごす森林公園でのデートは、多分数えると100回は越えているだろう
そのくらい、俺たちの日常に、この公園は欠かせない存在だ
今日も、講義が終わったあといつものこの場所で待ち合わせ・・・
と二人・・・噴水広場の水辺が眺められるベンチへ向かっていた

が指差す先には・・・金色の天使が舞っていた
入り口から奥へ向かう公園のところどころで見かけるクリスマスオブジェ
はばたき美術大学の学生が毎年作成するものだ
これを見かける様になると、本当にクリスマスなんだなって気がする

本格的な冬へ向かうこの時期に、寒々とした水を求めてここへ来るような奴はいない
いつもの定位置のベンチに腰掛けて・・・俺は当たり前のようにの膝枕で寝転んだ


膝枕をしてもらえるようになったのは・・・付き合って二度目のデートのときだった
半ば強引に占拠した膝の上から見上げると、の顔と、空しか見えなかった
それしか見えない空間の中で・・・俺はじっとを見た


『もぉ恥ずかしいから見ちゃだめ』

そう言っては照れて・・・でも、優しく俺の髪を撫でてくれた
それから・・ずっと、の膝は俺のもので、俺は俺にしか見られないこの風景が本当に気に入っている

でも、ベンチに座ったままの膝枕には、かなり無理があって・・・
俺の頭はずるずると滑り落ちそうになる
そのたびに・・・が支えてくれるのが、また嬉しいけれど


「あー、落っこちちゃうから、珪くん膝枕はまたおうちでね」

そう言って、は俺の頭をぽんぽんとたたいた
少し不服ながらも俺は身体を起こし・・・の背に腕を回した


「なあ・・・
「なに?」
「クリスマス・・・」
「あ〜!クリスマスね、行きたいところいっぱいあるんだよ」


クリスマス、プレゼント何が欲しい?
そう聞こうと思ったけれど、がどこへ行きたいのかは、プレゼントと同じくらい重要項目だ
俺は、うなずいての言葉を待った


「あのね〜、どこにするかすっごい迷ってるんだけど〜」
「ん・・・」

普段出かける場所の希望を言うことのないにしては珍しく・・・なにやらあれこれと考えているらしい
でも、それは、俺と過ごしたいって気持ちの表れだろう・・・
そう思うと少しくすぐったいような照れくささを感じた


「えっと〜、まずは、二人の思い出の場所」
「思い出の場所・・・?」
「珪くんは、そういわれてどこを思い浮かべるかな?」

はそう問いかけると、嬉しそうに足をぶらぶらさせて、俺の手をとり、指を絡ませた
男として・・・この状況で解答を間違えるのは、かなりまずい
思い出の場所がの見解と違っていた場合、俺の指は思い切りにつねられるだろう
そんなわずかな不安を感じながら・・・・俺はニコニコと嬉しそうなの顔を眺めた


「思い出の場所・・・それは・・・」
「うんうん、それは?」

ん〜、クリスマス限定なら、臨海公園の観覧車が見える埠頭じゃないだろうか

でも、待てよ・・・
思い出の出来事なら、ほかにもたくさんあるわけで・・・
夕陽を見ながらキスをした、はばたきシーランドははずせない・・・
それから、温泉にも出かけただろ・・・
貸切露天風呂・・・二人で入ってちょっとエッチなことしたよな・・・
あのときの・・・色っぽかったな・・・

そして、俺たちが、初めて結ばれた、夜景のきれいなあのホテル
真っ白いシーツに包まった・・・の白い肌
思い出すだけでも・・・


「ねえ・・・珪くん」
「ん・・?」
「エッチなこと考えるの禁止」
「え・・・何でわかったんだ?」
「珪くんがエッチなこと考えてると、顔にすぐ出るからわかるの、まったく、もぉ」

そう言うと、は俺の鼻をつまんで、頬をペチペチとたたいた
俺はの観察眼の鋭さに感心しながら、俺の頬をたたく手の上に自分の手のひらを重ねた
小さな手のひらが・・・頬に押し付けられ、その体温が伝わってくる


の手・・・温かい」
「そぉ?眠いのかな、でも珪くんのほっぺのが温かいよ」

少し照れたように瞬きするの手を強引に引き寄せる


「あ・・・珪くん・・・」
「寒いから・・・俺がぎゅってしてやる」

そう言いながら・・・俺はの身体を引き寄せ抱きしめた
ふわりと揺れた髪の香りが・・・いつもと変わらないを感じさせた
すっぽりと腕の中に収まったの髪に・・・唇を寄せキスをする

もう冬へ向かう冷たい風が足元の枯葉を躍らせる
カサカサとその葉の音が耳に心地よい・・・・


「珪くんの胸・・・ここにいるとすっごく温かい・・・」
「ん・・・」

俺は腕の中のが可愛くてたまらなくて
身体を離し・・・その顔を上げさせ頬に手を添えた
は・・・そっと目を閉じて、俺の手の上に自分の手を重ねた


「珪くんの手・・・温かいね」
「ん・・・おまえの手も温かい・・・」
「でもさぁ」
「ん?」

は突然目をぱちりと開けると、まん丸の瞳で俺を見た


「寒いっ」
「ん?寒いのか?」
「うん、珪くんは寒くないの?」
「ああ・・・おまえと一緒だと温かい・・・」
「だからぁ、そういう気分的なのは私も温かいと思うけど」
「けど?」
「スカートだから足が寒いのぉ〜」

そう言うとは自分の足をさすり始めた
確かに、言われてみれば・・・風が結構吹いている
この寒さだから、ここには誰もいないんだろうな・・・
は顔をしかめながら「ん〜、さむいさむい」と自分の足をこすっている


「じゃ、俺も・・・」

の足に手を伸ばし・・・肌に触れようとした途端
「だーめっ!」っとは俺の手をバチンとたたいた

「なんだよ・・・一緒にさすったらもっと温かいだろ?」
「珪くんに触らせたら、さするだけじゃ絶対すまないでしょ!
 この下がでれーって伸びてくるんだから」

そう言うと、はまた俺の鼻をつまんだ


「ぷっ・・確かに」
「そうでしょ〜!」

そう言って、は人差し指を一本立てて、俺のおでこをくいと押した
最近はこんな調子で、すっかりに見通されている俺
それでも、そんな風に俺をちゃんと分かってくれてるって事が・・・2年9ヶ月の時間の賜物なんだなと思う

そんな俺たちに呆れたかのように、ひときわ強い風が吹き抜けて、はたまらず「くしゅん」とくしゃみをした


「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない〜寒い〜」
「じゃ、室内へ避難しよう」
「うん、そうしようそうしよう」

立ち上がったのスカートに・・・一枚枯葉がついていた
それを摘み上げて、俺はちゅっと音をさせて口付けた
は「なにやってんだか」とまた呆れたけど・・・でも、横顔はちょっと嬉しいときの顔だった

俺の指から離れた枯葉が・・・足元の仲間たちと踊りだす
吹き抜ける風は、思わず身を縮めるほど冷たいけれど
繋いだ手は、本当に温かかった・・・








バタンッ

冷蔵庫のドアを閉め・・・プシュッといい音をさせてビールの缶を開けた
風呂上り、ミネラルウォーターのボトルと、ビール
どちらか迷って、缶を選んだ
明日はとデートの予定の日曜日・・・
2時間は寝坊できることを考えて、たまにはこのくらいはいいだろうと思った

俺は濡れた髪をタオルで拭きながら・・・階段を上ってゆく
エアコンで暖められた部屋は風呂上りの俺には少し暑く感じた
ビールの缶をグイと傾けながら・・・スタンバイになっていたパソコンのマウスを動かす

真っ先に開くのは受信トレイ
手紙のマークが閉じている新着メッセージは、の名前
タイトルは・・・「ごめんね!」


「ん・・・?」

いぶかしく思いながら、俺はメッセージをクリックする


『ごめんね!


 珪くん、もう寝ちゃったかな、起こすと悪いからパソにメール入れておくね。
 あのね、明日の約束なんだけど、行けなくなっちゃったんだ。
 本当に本当にごめんね!
 
 来週会うことになってた奈津実ちゃんが、明日に変更してくれないかって連絡してきたの。
 奈津実ちゃん、ニューヨークにいるでしょ。
 先週からこっちへ帰ってきてるんだけどニューヨークへ戻る予定が一週間ずれちゃったんだって。
 だから、本当にごめんね、明日は奈津実ちゃんと会いたいの。
 珪くんがもし予定がなければ、来週会えると嬉しいです。

 メールのお返事がなかったら、また明日電話するね。
                                      』


藤井とは、高校の頃からずっと仲がいい
卒業して一年間写真の学校へ通っていた藤井は、いまはニューヨークでフォトアーティストを目指して勉強しているらしい
時々日本へ戻ってくるから、そのたびに会っているし、この夏にはがニューヨークへ遊びに出かけたりしていた
デートの約束がキャンセルになるのは少し残念だけど・・・藤井と会いたいの気持ちは大切にしてやらなければいけない
俺は・・・返信メッセージを書き始めた





 了解・・・
 俺のことは気にしなくていいから、藤井とゆっくり積もる話でもして来い
 来週は・・・バイトだから、ゆっくり会うのは無理だ
 でも、クリスマスは予定空けてるから、そのときにはのんびりしよう
 
 じゃ、もう寝る
 おやすみ・・・  珪     』

送信ボタンをクリックした俺は・・・ビールを一気に飲み干して、「ふぅ」とひとつ溜め息をついた
予定もなく・・・ぽっかりと空いてしまった日曜


「さて・・・どうするか」

声を出してみたものの・・・誰が返事をするわけではない
空になった缶をパソコンデスクにおいて・・・俺はベッドに身体を投げ出した

相変わらず人と付き合うのが得意じゃない俺は・・・大学でも男友達はほぼいない
時折、やたら親しくしてこようとする奴がいるけれど
たいてい、モデル仲間を紹介して欲しいとか・・・そんな下心があって気にくわない
撮影スタッフは・・・それなりに飲みに行ったりはするけれど、休みに出歩くような仲じゃない


一人で寝るのが一番か・・・

そんなことを考えながら、俺は枕元のフォトスタンドを手に取った
二人で出かけたはばたきシーランド・・・
ヴェニスを模した運河を航行するゴンドラに揺られ、照れくさそうに寄り添う俺たち
ずっと二人で手を繋いでいた・・・あの日


・・・好きだよ」

写真に向かって・・・つぶやく俺
言った後には必ず照れくさくなるけれど・・・
本当に俺は、の事が好きなんだ、そう実感できる瞬間だ
といっても、本人に向かってはなかなかいえない台詞だったりする

写真のの笑顔を指でなぞりながら・・・俺の脳裏にあるひらめきが生まれた


「そうか・・・そうだよな」

俺は立ち上がり、クローゼットへ向かった
普段は見ようともしない洋服の数々が・・・ずらりと並んでいた


「よし・・・」

扉を閉めた俺は・・・きっと笑っていたに違いない
そんな俺を、写真の中のが変わらない笑顔で見つめていた・・・・



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